AVIDが新しいオーディオインターフェイスを発表いたしました。
PCIeポートが無くても、AAX DSPが使用可能になる
AVID / Pro Tools | Carbon
現在はMac環境、Pro Toolsのみ対応
Avid HDXカードと同じチップ搭載で、少ないレイテンシー
32bitオーディオインターフェイスで、リボンマイクやコンパクトFXも接続可能なVariable Z
音質
操作スピード
マニアック度
レイテンシー
今回は新しくAVIDから発表されたPro Tools | Carbonというインターフェイスの宅録に対する利点を解説していきたいと思います。
AVIDは商業スタジオやレコーディングエンジニアなどメインで使用している、Pro Toolsを発売している会社です。
今回の発表で独自規格の接続ケーブルDigiLinkでは無いイーサネットタイプのAVBでの接続になっています。
このAVBはMOTUのオーディオインターフェイスに採用されている規格で、LANケーブルを使用してオーディオ信号を通信します。
AVIDは映像編集の音声部分の編集機としてPro Toolsを常に考えてきた会社なので、映像業界が採用する通信技術に常に寄り添って商品を開発してきています。
Pro Toolsの技術も、音楽用と言うよりも、ポストプロダクション(映画や映像の制作)で追加してほしい技術を率先して導入してきている印象です。
通信規格がAVBになっていけば、LANケーブルを使用することで各スタジオの中にDigiLinkケーブルを別途用意する必要もないので当然の考え方だと思います。
今は家庭環境でも、1部屋づつLANポートがある家も珍しくありません。
PA業界で現在主流のMADI、YAMAHAが推し進めてきたDanteなど色々な規格がありましたがMOTUが採用していたAVBをAVIDも採用してきた事は、映像を常に第1に考えるAVIDとしては当然の進化だと思います。
ヴィンテージ機材を好まない、シンプル思考のプロデューサーやアーティストであれば導入は検討の余地ありと僕は考えます。
それでは詳しい内容に入っていきましょう。
対応する環境
対応するパソコンがMacのみで、対応DAWはPro Toolsのみです。
Macとの接続はイーサネットケーブルで接続します。(現在はApple純正のアダプタのみがサポートされていますので注意が必要です。)
現在はAVBスイッチなどの複数の機器接続対応はまだなようなので、これからの開発に期待です。
LANを使用した、デジタルオーディオ転送技術
AVBなどのデジタル規格のケーブルの恩恵はプライベートスタジオでは、音質向上に大変効力を発揮します。
アナログケーブルの長さを短くできるので、コントロールルーム(レコーディングエンジニアが居る部屋)と録音ブースをLANケーブルで繋ぎ、ヘッドアンプとマイクのケーブルの長さを10m程度におさえられます。
商業スタジオではコントロールルームと録音ブースの間のアナログケーブルの長さが50〜100メートル位のスタジオは結構存在します。
音はケーブルが長いと劣化しますし、ノイズの影響もうけます。
マイクレベルの信号は、ラインレベルよりも更に影響を受けやすいので、ブースでラインレベルに変換され、さらにデジタルになり転送されてくる信号とでは本当に比べ物にならないくらい良い状態になります。
最近のライブPA業界でも、デジタル規格でのオーディオ転送技術が使用されていて格段に音質が向上されたことは皆さんも実感していると思います。
もうほとんどのライブ会場がアナログのPA卓を使用していない状態です。
32bit対応オーディオインターフェイス
ビットレートが32bitに対応しているということです。
市販されているオーディオインターフェイスのほとんどは、24bitのインターフェイスがかなり多いので音質の向上は期待できます。
Variable Z
プライベートスタジオや宅録では充分すぎるほどのインアウト数を持っています。
異なるインピーダンスの機器を自由に接続できるVariable Zと言う特殊なインプットが便利だと思います。
現在アナログのヘッドアンプやコンプレッサーなどを購入する予定のない人であれば、様々なマイク、コンパクトエフェクター等を気軽に接続できる仕様なので便利ではあると思います。
ただし、このインターフェイスからアナログでセンドリターン回線が確認出来ないので、ヘッドアンプの後の処理はすべてプラグインでの内部完結を考えている方向けの商品に思えます。
Pro Tools | HD OMNIではヘッドアンプの後にセンドリターン回線があったので、これはもう少し商品の研究が必要になると思ってます。
4つのキューアウト
4つのキューアウトがあるので、アフレコ収録、リハスタ等の簡易録音も問題なく行えると思います。
キャリブレーション設定
僕はPro Tools | HD OMNIを使用しているのですが、キャリブレーションの設定が余り細かく設定できないので、Pro Tools | Carbonも同じような方法でしか設定が出来ないのか気になるところです。
Pro Tools | HD I/Oはアナログなネジを回す仕様なので、1つ1つの入出力の値は特定機を使用して0.01dB単位まで調整が可能です。
Pro Tools | MTRXが音楽業界に普及しなかった一番の原因はこの部分だと思っています。
サミングアンプを使用している方は当然気になりますし、スピーカーのLとRが違うかもしれないと思いながらミックスを出来るエンジニアはあまりいないと思います。
レイテンシー
Mix用とRec用オーディオインターフェイスを分けて考えるの記事の中で録音用とミックス用のインターフェイスを分けて考えるという案を提案しましたが、今回のPro Tools | Carbonではその中間を進むことが可能になると僕は考えました。
現在のPro Tools | HDXカードはPro Tools | HD Accelカードと違い、レイテンシーの値は
HDX>HD Accel
の関係性になっています。
皆さんも気をつけて欲しいのですが、Pro Tools | HDXシステムのの商品紹介の記事には、ニアゼロレイテンシーという言葉や、ゼロレイテンシーに近いなどの言葉が書かれています。
販売店さんの中にもレイテンシー問題を気にする方は多く、お客様に嘘をつくわけにもいかず、AVIDの製品に対して問題定義をすることもできず、このような表現を使用しているように思えます。
各トラックのグルーヴチェックの記事でもお話したように、プロの世界は毎日1/1000秒単位の1ms細かな検証をしている世界です。
1つのプラグインのチップに対する負荷の増大に対応する為に、仕方なかった選択だとも思いますが、音楽を制作する中で、最も重要な部分がレイテンシーです。
しかし、SONY PCM-3348(Pro Toolsの前に商業スタジオで使用されていたデジタルテープレコーダー)でもレイテンシーはあったので、Pro Tools | HDXカードが発売された当初ほどレイテンシー問題を騒ぐ人も少なくなりました。
レイテンシーがあると、演奏者は遅延した音をモニターしなければならない為、演奏の質が低下します。
エンジニアは、お気に入りのハードウェアFXを気軽にインサートして使用する事が難しくなります。
Pro Tools | HD AccelとLine 6 Amp Farmの組合せ、レイテンシーという意味では素晴らしいヒット商品だったと思います。
この部分の変更でも、Pro Toolsがいかに映像業界との追従を第一に考えているかがわかります。
ポストプロダクションでは、映像との同期さえとれれば遅延補正をしてレイテンシーを気にすることもありません。
Dolby Atmosに対応すべく、Pro Tools | MTRXを発売したことなども映像業界に追従したいという理由かと思います。
HDXと各メーカー独自プロセッサーの開発の歴史
オーディオインターフェイスの中にPro Tools | HDXのチップが入ったという流れは、今までのMacの開発の歴史に大きく翻弄されてきたAVIDの苦悩が想像できます。
僕がお勧めしていたUniversal AudioはオーディオインターフェイスとDSPのチップを内包した製品でした。
Macとの接続はThunderboltやFireWireなど、どのMacにも対応できる接続方式です。
一方AVIDはカードをPCIeに接続しそこからDigiLinkケーブルでオーディオインターフェイスと接続するというデスクトップ型のMacを中心とした商品を展開していました。
Appleが黒いMac Proを発表し、PCIeの接続ポートは廃止されHDXカードは接続できず、プロミュージシャンのシェアを大きくUniversal Audioにとられてしまった流れがあります。
その後にPro Tools | MTRXを発表しますが、DigiLinkケーブルが採用され続けプラグインが可動するDSPカードを追加することはできず、させるカードはDolby Atmosのスピーカー調節用のEQチップなどのみでした。
新しいMac Proではまたタワー型のモデルに戻ったものの値段が高くなり、多く商業スタジオでもMac miniを選択するスタジオが増えていきました。
Mac miniにはThunderbolt3やUSB 3.1などの端子はありますが、PCIeのポートはありません。
せっかくの省スペースMac miniに拡張シャーシと呼ばれるPCIeを拡張する機械をドッキングさせるという、なんとも本末転倒なシステムを作ることになってしまいました。
またプラグインとしては有名で皆さん使用していると思います、WAVESもPro Tools | HDXカードの中で、プラグインを動かす事を諦め、現在はSoundGridというシステムを開発しオーディオインターフェイスやDSPプロセッサ、または内包されている商品を販売しています。(DAWも開発しています。)
WAVESが開発したいプラグインとPro Tools | HDXカードのチップ1個単位のマッチングが合わず、独自開発の道に別れてしまいました。
1時期はエンジニアさんの中にもSoundGridのサーバーは普及しましたが、Pro Toolsとのマッチングが悪く現在使用している方を見ることはあまりありません。(感覚的には、ハードウェアFXのようにPro Toolsにインサートして使用する感覚に近いです。)
せめてAVBなどの他のメーカーと共通の通信規格を採用してさえすればもう少し普及できたかもしれません。
少し前からプラグインのレイテンシー問題でUAD-2離れも、エンジニアの中でおき始めていたのも事実なので、このPro Tools | Carbonの発売の後にすぐUAD-2ようなプロセッサーユニットのみの商品をAVB規格で発売し、簡単にシステムに追加することができれば、AVIDはもう一度音声市場の独占が可能になると僕は思っています。
残る問題はいかにレイテンシーを小さくするかだけになるので、そこは2020年11月、Mac M1チップモデル発表(DAW用として考える)などの、最新チップの可能性を末長く待つことしかできないと思います。
マルチタスク型ではなく、瞬発力に特化した音楽用のチップを待つのみです。
Universal AudioのほうはDAW LUNAの操作性をいかに向上させるか、Pro Toolsとのレイテンシー問題を解決するかが、肝になってくると思います。
これに失敗すると、WAVESと同じような未来に少しづつ近づいてしまうと僕は思います。
波形編集を多用しない音楽ジャンルで、オールド機材、アナログにこだわるチームであれば当然Universal Audioを選択すると思いますが、Pro Tools | Carbonの発売はPro Toolsの利便性をさらに強化する、インターフェイスだと思います。
拡張可能なDSP商品
Plugin AllianceやSoftubeなどのメーカーはこのようなDSP問題の中、様々なプラットフォームで稼働するプラグインを開発している会社も存在していることもありエンジニアは、少しづつDSP AAX環境に戻ってきているように感じます。
AAX DSPで使いたいプラグインを使用できるのであればHDX環境に戻りたいが、エンジニアの正直な思いだと感じています。
まとめ
レイテンシー問題があると、お気に入りのハードウェアFXの同時インサート使用が出来ない、ミックス中の編集作業時の遅延問題など様々発生します。
Pro Tools | HDXシステムは、高価すぎるがNative環境(CPUのみで作業する環境)よりもレイテンシー問題を解決したい方
ヴィンテージ機材を好まない、シンプル思考のプロデューサーやアーティストであれば導入は検討の余地ありと僕は考えます。
僕はPro Tools | HD OMNIが結構好きなオーディオインターフェイスだったので、来年ぐらいには購入をしようと思っています。
それにしてもAVB規格採用にはびっくりしました。
今回はAVIDが新しいオーディオインターフェイスPro Tools | carbonを発表!DigiLinkを捨て、AVBを採用という内容で解説させていただきました。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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