僕がこの業界に入った時がちょうど、録音メディアがテープメディアからDAWに置き換わる頃です。
子供の頃に流行っていた音楽はほぼテープメディアで制作された音楽でした。
高校生の頃にカセットテープのMTRを購入し、宅録の世界に入っていきます。
業界で仕事を始めた頃は純粋な、機材への憧れからアナログテープやデジタルテープの良さを曖昧に感じていたと思います。
世の中にサブスクリプションの配信サービスが流行り出していき、レコード会社が過去の音源のリマスターやリミックス音源の発売を続けていきます。
当然僕にもそのような依頼が届き、ミックスやテープからのデジタイズの作業をしていくなかでテープメディアが音楽に良い影響を与えていた原因を僕は確認することができました。
DAWの中でも良い演奏を収めることができているアーティストも当然存在していますが、当時のアーティストはテープメディアに音楽を収める上で素晴らしい恩恵を受けていたのではないでしょうか?
それでは詳しい内容に入っていきましょう!
音楽で使用されているテープメディア
カセットテープやオープンリールのようなアナログテープ
レコードから世代交代した、書き換えが可能なアナログ録音メディアです。
レコードは物理的に円盤に溝を掘ってしまうので、書き換えが出来ません。
磁気を利用して音声を記録しているので、録音と再生が可能になっています。
無限に使用出来るわけではありませんが、少しづつ劣化しながらアナログの音声を記録できるテープメディアです。
2chを記録する物から、24chのマルチ録音に対応した物などがあります。
SONY PCM-3348を代表とするデジタルテープ
テープメディアの形状をしていますが、音声はデジタルで録音されています。
48chのマルチ録音を可能にし、ProToolsが登場するまではほとんどの商業スタジオがこのテープメディアで録音をおこなっていました。
アナログのマルチテープと比べるとテープの幅は大変細く、持ち運びにもたけていたと思います。
アナログテープとシンクロさせることも可能なので、ドラムはアナログテープで録音。
その他のトラックは3348に録音する方法も選択できました。
アナログテープの質感
音声をアナログのまま録音からミックスまでを行うととても上質な音像を感じることができます。
DSDなどの新しいフォーマットはありますが、DAWではPCM方式が主流になっています。
32bitの規格が主流になってWAVフォーマットも少し改善されたと思いますが、アナログの質感とは別次元の記録メディアだと思っています。
皆さんがこれを体験するには、高級なカセットテープMTRを購入するなどの方法しかないと思います。
音質的な部分はテープの質感を表現するハードウェアなども存在しているので、現実的な意味ではエフェクターを使用するのが良いと思っています。
アナログを求めるならアナログ機材を素直に使用する
RUPERT NEVE DESIGNS / Portico 542
アナログには勝てない
500シリーズなので宅録でも安心の小スペース
ステレオ素材に使用するには2台準備するか工夫が必要
オールマイティ
操作スピード
マニアック度
痒いところに手が届く
テープメディアの揺らぎ
物理的なテープはテープを巻き取りながら音を再生したり録音したりします。
現在のDAWと違って、速くなったり、遅くなったりを繰り返しています。
アナログテープはその揺らぎが大きく、デジタルテープは揺らぎが少し小さいです。
テンポを120と決めてメトロノームをテープに録音すると、テンポ120の周辺をゆらゆら揺れているクリックに対して演奏をすることになります。
現在のDAWでは、1番で演奏した内容を3番に貼り付けるということが可能です。
効率化という意味では作業スピードは向上しますが、音楽的な意味では退屈な繰り返しが増えるだけです。
デジタルテープではコピーが可能ではありますが、テープの揺らぎがあるのでコピーをしたとしても同じ状態にはコピーされず、微妙にタイミングの揺らぎが発生することになります。
これによってリスナーに与える、不確定要素は当時の音楽の良さだったとも言えると思います。
それに加え、1番よりも3番の方が巻き取られるテープの重さが軽くなっていく為、少しテンポが速くなります。
曲が終わりに向かってスピードアップしていくことは、もしかしたら楽曲の盛り上がりに影響を与えていた可能性は少しありそうな気がしてなりません。
それらを再現する場合、カセットテープなどにクリックを録音してからDAWに戻し色々なテンポのテンプレートデータを作成しておくことで当時の状況を模倣することが可能です。
ランダム性は少し劣りますが、同じような状況を再現することができると思います。
これらの揺らぎが、水彩画のような音の重ね方を可能にしていたとも思います。
DAWとテープメディアでは、音を重ねていった時の質感が全く異なります。
DAWでは油性マジックで描くような、はっきりとした輪郭のあるアレンジを表現する方が有利な印象があります。
テープメディアに録音する際のアーティストの緊張感
DAWではデータ領域がある限り無限に録音をし続けることが可能です。
いくつもの演奏を保険としてとっておくことも可能です。
テープメディアは録音をする時に、以前録音されていたトラックを消すことになってしまいます。
トラック数は限られているので、新しい音を録音する時は常に現場に選択が迫られます。
演奏する側は、絶対により良い演奏をしなければいけない緊張感があります。
録音する側は、録音をし始めるポイントと録音を停止するポイントを真剣に切り替えなければいけません。
しかもテープメディアは何回も録音再生を繰り返してしまうとどんどんテープが劣化していき音が悪くなってしまいます。
当時の現場の緊張感はとてつもない状況だったと聞きます。
現在のDAWを主体としたレコーディング環境とは全く違った世界だったようです。
まとめ
今回はテープメディアが音楽に与えてきた影響を音質とタイミング、人間の緊張感という3点で解説いたしました。
音質の部分以外は現在のDAW環境でも模倣がある程度出来る内容だと思います。
取り返しがつかない緊張感の中でレコーディングをしていたから、優れたアーティストが育っていったという先輩エンジニアもいました。
僕はそれと同時にテープメディアが与えたタイミングの揺らぎが本当は重要だったのではないかと考えています。
主流になる録音メディアによって音楽の特設も変化していくことはとても興味深いことだと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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