ご質問をいただきました。
ボーカルはスタジオで録音をした方が良いのか?
それとも慣れている宅録のままでも良いのか?
録音される素材にあまり変化を感じられないのでどっちが良いのか不安です。。。
それぞれメリットとデメリットがあるので、僕はプロジェクトの規模感や歌い手さんやアーティストさんの考え方をヒアリングして決めています!
2000年くらいから、宅録の技術進化が大幅にスピードアップしていて、これまでのスタジオでのレコーディングをやめていく方も多くなってきています。
僕もDAWを使い始めたのが2000年くらいだったので、技術の進化に毎年ビックリする毎日です。
それよりも前の時代は宅録がまだ4〜8トラック程度のレコーディング機器しかなかった為、宅録をするときにはたくさんの工夫が必要でした。
カセットテープやメモリーカードのMTRが主流でした。
スタジオで録音か、宅録かで悩んでいるというご質問が僕のところに届くということ自体が、宅録の進化を表していると感じます。
2005年頃から僕も同じ疑問を持ち始めて、実際に発売する音源を宅録で完成させることをチャレンジし続けてきました。
スタジオ録音と宅録はそれぞれ、メリットとデメリットがあり簡単ににどちらが良いということは言えないと僕は考えています。
使用する機材を細かく選定していき、スタジオで使用している機材を宅録に導入すればクオリティーの高い録音をすることが可能になってきています。
同時にどんな高級なスタジオでも、間違った使い方をすれば宅録よりも品質の悪い音を録音してしまうことになります。
このブログで解説していることは、スタジオレコーディングの良さと、宅録の良さの良いとこどりをしていく方法をテーマに随時更新しております。
それでは詳しい内容に入っていきましょう!
レコーディングスタジオでボーカルを録音する場合
メリット
スタジオのクオリティーによりますが、以下のようなメリットがあると思います。
- スタジオ全体が防音構造の為、雑音が入る心配がない
- 近隣の迷惑を気にせず大きな声で歌うことができる
- 音響機材専用の電気を用意しているスタジオが多いので、電気的なノイズが比較的少ない
- 高価な機材をリーズナブルな金額でレンタルすることができる
- あらかじめ機材がセッティングされているスタジオが多いのでスムーズなレコーディングをすることができる
- 雑誌にのっているような空間で録音することでテンションがあがる方もいる
無音に近い状態のブースと呼ばれる小さな小部屋に入って録音をするので、雑音や無駄な響きのない声を録音することが可能です。
通常の部屋では小さな反射音が鳴っていることが多くマイクにもその響きが収録されてしまいます。
宅録も工夫で部屋の音響構造を微調整することは可能ですが、あくまで少し改善ができる程度だと思います。
また、自宅で正しい音を確認する為にはEQ補正のついたスピーカーを使用することをオススメします。
正しく音が聞こえていない環境で作業を続けると偏った判断をしてしまう可能性があるので十分注意しましょう。
どんなに優れたエンジニアでも聞こえていない音を判断することは出来ません。
自宅の音響バランスを改善する為の本です。
僕もスタジオをデザインする前は、自分の自宅をこの本を読みながら少しづつ改造していきました。
僕の原点のような、思い出の本です。
スタジオでは、ルーム調整がされているので不必要な響きが無い状態で録音することが可能です。
夏の宅録では、マイク録音のたびにエアコンを止めて録音します。
暑さを我慢しながら作業をするのも問題ですが、エアコンの操作がボーカル録音とセットになっているという経験を皆さんされていると思います。
地味な行為なのですが、かなり面倒です。
その点レコーディングスタジオのブースの中には、ダクト式エアコン(風の音がしないエアコン)を採用しているところもあるので、エアコンをつけた状態で録音することも可能です。(1時間30000円のスタジオ関係はこの方式が多いです。)
他にも電車の音や、色々なノイズが宅録では付き物です。
音響機器専用の電気回線が用意されている為、冷蔵庫、電子レンジやエアコンのノイズを拾うことは少ないです。(ギターのピックアップに入ってくるようなノイズは宅録、スタジオ共にあります。)
マイクや、機材などを複数試しながらボーカリストに合う物を選択することが可能です。
ギターなどであれば、違う音色を出す為に別のギターを使うことが出来ますが、ボーカルの場合は、声帯はひとつなのでマイクや機材を変えて音色を調整する必要があります。
スタジオであれば、色々な機材が用意されていると思いますが宅録であれば全て自分で用意する必要があります。
特にボーカル関係の機材は、Aさんに合う機材がBさんに合うということが少ないのでよりたくさんの機材から選択していく必要があります。
皆さん個性のある声をしているので、その人にあった組み合わせを探していきます。
Mix師が考えるボーカルレコーディングの心得で詳しく解説していますが、記者会見のようにたくさんのマイクをボーカルの前に設置して同時に複数の機材を試すことも多いです。
パッチベイと呼ばれる機材を使用してフロントパネルから簡単に接続することが出来る仕組みが備わっているスタジオが多いので、作業が大変スピーディーです。
コネクターといえばNEUTRIK
NEUTRIK / NPPA-TT-E90
スタジオに置いてあるケーブルのコネクターはほとんどこの会社です
接点不良が多いパーツなので信頼のある会社を選びたい
小スペースと作業効率アップには必須のスタジオ機材
音質
操作スピード
マニアック度
クール
パッチベイの仕組みはこのような仕組みになっています。
所有している機材を全てパッチベイに接続しておくことによって機材の背面にまわって作業のたびに懐中電灯をもって接続を変更するようなことがいらなくなります。
バンタムというギターケーブルよりも細いケーブルをフロントパネルで接続することで結線が完了します。(フロントパネルを接続しなくても常時接続される設定も可能です。)
ボーカリストが素敵な声を出せる時間は本当に一瞬です。
レコーディングエンジニアは短い時間で使用する機材を選定する必要があり、パッチベイはその為にとても重要な仕組みになっています。
レコーディングスタジオの雰囲気だから気持ちが入る方も当然います。
良い意味の緊張感が、表現に与える影響もあると思います。
デメリット
全てのスタジオがこのような問題を抱えているわけではありませんが、以下のような可能性がレコーディングスタジオにはあります。
- ブース(ボーカリストがいる部屋)とコントロールルーム(レコーディングエンジニアがいる部屋)を繋ぐ回線が古い場合や100mくらいの長いケーブルを使用している可能性がある
- 窓がついていないスタジオでは、アイコンタクトが出来ない場所もある
- 日程や時間をあらかじめ決定しておく必要があるし、時間を気にしながらレコーディングをすることになる
- 後日一部分だけ録音し直すことなどが難しい
- スタジオの品質によってコストは様々
レコーディングスタジオを作る場合、壁の中にケーブルを埋め込む場合が多いのでスタジオが建設された時からケーブルを設置したままのスタジオが多いと思います。
直引きケーブル(通常のマイクケーブルがブース、コントロールルーム間で引かれる方法)が設置されていない場合は、ある程度の音の劣化はあると思います。
昭和の時代にできたスタジオであれば、何年前のケーブルを使用しているのでしょうか?
もちろん、メンテナンスで交換する場合もありますがそこまで頻繁には交換している物ではありません。
ブースとコントロールルームのコンタクトの取り方は、基本トークバックというシステムを使用して音声のみでおこないます。
窓がついているスタジオであれば、顔が見えていますが無い場合は相手の顔がみえません。
録音中の表情などから、ボーカリストの心境を確認することも多いので重要な判断要素になります。
現在はビデオチャット機能の映像のみを使用して代用することもあります。
レンタルスタジオという性質上、日程などをあらかじめ決定しておくことが必要です。
当日に風邪をひいてしまうこともあると思います。
宅録であれば、また後日ということが簡単に出来ると思います。
あと何時間で録音しないといけないような状態では、あまり落ち着いて録音はできません。
宅録では、機材をセッティングしたまま置いておいて一部分だけ録音し直しをすることも自由におこなえると思います。
1時間30000円くらいのスタジオから、1時間2000円くらいのスタジオまで様々あります。
宅録では、ご自身の家賃と電気代のみなので格段にコストは上がってしまうと思います。
宅録でボーカルを録音する場合
基本的には、レコーディングスタジオでのメリットとデメリットが逆転していきます。
メリット
- 短いケーブルを使用できる
- 自分で録音する場合はそもそもコンタクトいらず、2人の場合でもなんの境界線もない
- 時間の許す限り、好きなだけ、何度でも録音できる
- 制作コストを削減できる
ケーブルの長さはとても重要です。
どんなに高級な機材を使用していても、100m引き回したケーブルは本当に残念な音をしています。
宅録であれば、ケーブルはどんなに長くても10m程度かと思います。
これは大変大きな違いで、高級なスタジオに勝てる重要な部分です。
宅録では可能な限り短いケーブルを使用しましょう。
ラインレベルはマイクレベルよりノイズの影響をうけないので、セッティングが既に決まっている場合はオススメ宅録HA(ヘッドアンプ)3選で紹介したヘッドアンプをブース内に設置して、事前にラインレベルにした状態でスタジオの回線にいれることも多いです。
1つの部屋で録音する場合は、お互いにヘッドフォンをして録音します。
レコーディングエンジニアは、音が二重に聞こえるので音の判断が難しいですがコンタクトで困ることはなくなります。
外国では1つの大きな防音ブースで作業している方が最近多くなっているように感じます。
宅録のメリットはなんといってもコストダウンだと思います。
予算がかけられない人でも、作品を作ることを可能にした技術はお金の問題で才能を諦めるようなことがない世界を作ってくれました。
音楽にとって素晴らしい時代です。
2006年くらい、ミックスの作業は大型のスタジオでおこなうのが一般的でした。
宅録を行う方であればミックス作業に何日もかけて仕上げていると思いますが、大型スタジオでのミックスは1日で仕上げるのか通常で、機材はその日のうちに片付けてしまうので後日一部分を修正ということは出来ません。
この手法では、作品に参加する一瞬の集中度は高いので良い部分もありますが、思わぬ事故が起きると大変なことになります。(歌詞間違いや、ノイズの混入、カラオケ音源の落とし忘れなど)
もちろん、大型のミキサーを使用したミックスは当時のDAWを使用したミックスとは比べ物にならないクオリティーの差がありました。
宅録の未来に希望を持ち続けていた僕はオススメ宅録Summing mixer(サミングミキサー)3選でご紹介した、Solid State Logic / XLogic X-Deskを使用した宅録ミックスを開始していきました。
60万円する機材でしたが、大型スタジオ3日分程度なので、3分の1程度のコストということになります。
アナログのミキサーの良さと、DAWを使用したトータルリコールシステムは本当に素晴らしい音楽環境だと思っています。
デメリット
- 色々なノイズ問題がある
- 近隣の方に配慮が必要
- 必要な機材は自分で全て準備
自宅でのレコーディングは、様々なノイズとの戦いになります。
電子レンジのノイズや、エレベーターノイズ、電車の音や、突然の廃品回収車のアナウンスなど色々なことでレコーディングを中断することになると思います。
部屋の音響を整えるということであれば、特殊なポップガードやルーム調整グッズが役に立つと思います。
部屋を調整するのが難しい場合、響きをなくすという点では大変優秀なポップガードを紹介します。
最悪の状況で歌を録音する時の強い味方
KAOTICA / EYEBALL
ラージダイアフラム・コンデンサーマイクロフォンに最適
近接効果で低音がブーストされてしまうが使い方次第
細かい部屋の調節をしなくても、どこでも録音可能
音質
設置スピード
マニアック度
クール
近隣の方との騒音問題には十分配慮が必要です。
今は小さな防音室を購入やレンタルなども可能なので、この辺りを検討してみるのも良いかもしれません。
楽器練習用の防音ブースですが、加工してボーカルブースにも使用可能
YAMAHA / AMDB08H
組み立て式で、専門の業者さんによる引越し可能
ボーカル録音程度であれば、まず苦情の心配無し
お部屋に合わせたバリエーションが選択可能
音質
設置スピード
マニアック度
クール
専門の業者さんにお願いして移動や組み立てが可能で、マンションでも数時間で設置が可能です。
小さな貫通パイプを通して、録音ブースとして使用することもよくあります。
内部の反射があるので、毛布をつるすなどの工夫が必要ですが使い勝手の良いブースだと思います。
戸建てのご自宅であれば、ギターアンプなども鳴らすことが可能だと思います。
レンタル機材などの会社もありますが、基本的には必要な機材を自分で購入して使用していく形になると思います。
スタジオなどで色々試して、気に入った機材を購入するなどしていくと良いとは思います。
Mix用とRec用オーディオインターフェイスを分けて考えるで僕がオススメしているUniversal Audio Apollo Twin X or Apollo x4などはスタジオ機材のシュミレーターなどが入っているので色々な機材を試すという意味では大変便利なオーディオインターフェイスだと思います。
まとめ
今回、ボーカルはスタジオで録音した方が良いの?宅録のままで良いの?というご質問に回答させていただきました。
それぞれのメリット、デメリットを理解していくとプロジェクトの規模や録音する内容によって最適な方法を選択していくことが可能になってくると思います。
ボーカル録音の場合は、スタジオか宅録いずれかを選択する必要がありますが、楽器の録音などではオススメ宅録Reamp Box(リアンプ・ボックス)3選で紹介したような方法を使用して、宅録の続きをレコーディングスタジオでおこなうことで、それぞれの良さをいかしたレコーディング方法をおこなうことも可能です。
また現在のような、人と人との距離を一定程度たもたなければいけないような状況では宅録とレコーディングスタジオをインターネットでつないで録音をするプロジェクトも増えています。
近い将来、レイテンシー問題が解決すれば宅録とレコーディングスタジオを複数連結して、別々の国などでの同時録音なども簡単に実現できる未来が待っていると僕は信じています。
また何か疑問点などがあれば気軽にお問い合わせいただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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