僕は常に音楽を平面で捉えていません。
曲が再生されて何秒かたつと停止するまでの間、必ず前の何秒かの響きの残り香が、現在再生しているところに重なって聞こえてきています。
人は何かと比べて現在の状態を評価する生き物のようで、音楽の中でもすべては相対的に考えていくと色々な悩みは解決へ向かっていくはずです。
トラックの数が多くて
もうどこにも置き場がないけど
まだまだトラックを追加したいと言われている
こんな経験はありませんでしょうか?
今回は音楽を平面ではなく、時間の変化を利用したミックスについて解説していきたいと思います。
それでは詳しい内容に入っていきましょう。
ドライ音はウエット音より近くなれない
世の中にはたくさんの音源が発売されていますが、空間系の色を全く追加していない音源はほとんど発売されていないと思います。それはドライ音よりウエット音の方が、人間に対して説得力がある音ということだと思います。
BATTERY 4(NATIVE INSTRUMENTS KOMPLETE 13に含まれるシンセ達)の中で
音楽にグルーヴを感じる時は
機械から人間に少しよった場所、人間から機械に少しよった場所
この二箇所だけ
という話をしましたが、ドライ音とウエット音の関係も同じように好まれるポイントが人それぞれあります。
音が出始めるときに、その音の質感をコントロールすることはグルーヴのコントロールに大きく影響することだと思いますが、ただそれだけをやっていくだけのミックスで立体感を出していくのは難しく、バリエーションの幅がどうしても狭くなってしまいます。
同じ音源制作チームであれば、アルバム3枚くらいが限界だと思います。例えば
- 激しいディストーションギターを混ぜる時に、リマイクして、リボンマイクの音を追加してみる。
- ボーカルにプレートリバーブをつけてみる
- スネアに余韻のサンプルを足してみる。
などの方法を使用して、完全なドライの状態よりも少しだけウエットに寄ったところに1番の存在感を大きくできるポイントを探していくことが重要です。
ドラム
イコライザー、コンプレッサー、リミッターなど多くの人がインサートで処理をしていくと思いますが、ドラムでも時間の変化を使用することができます。
UAD Ocean Way Studiosなどで空間を付加する方法は誰でも想像できると思いますが、太鼓関係のトラックからセンドでリミッターに音声を送る。
主にアタックの粘りのような部分の調整が可能になると思います。
インサートではスピード感の調整が難しく、使用できないが音色が気に入っているリミッターを準備してぜひ試してみてほしいです。
ロックドラムのパワーアップ
UAD Chandler Limited Zener Limiter Plug-In by Softube
ドラムからマスタートラックまでオールマイティ
選べるコンプ2種類、リミッター
M/S処理も出来る
音質
操作スピード
マニアック度
痒いところに手が届く
バスドラム、スネア、タムなどの音量を個別にバランスをとって送ることができるのでミックスの最終段階付近の調整がかなり優れています。
また直接トラックにインサートして使用するタイプですが
コンプの設定が苦手な方でも使える
Plugin Alliance / SPL Transient Designer Plus
シンプルボタン
感じたままにつまみを操作出来る
調整幅が小さくて、後少しだけに対応可能
音質
操作スピード
マニアック度
痒いところに手が届く
このプラグインは非常にシンプルなつまみの名前がついていて、アタックを増やす減らす、サスティーンを伸ばす縮める、明確に機能してくれます。ほんの少しだけ楽器の形を変形させたい時など大変便利です。コンプの概念を理解するまでは、このエフェクターの方が使い易いと思います。UADで発売されているタイプでも、少し機能が少ないですが問題ないです。
ベース、ギター
僕は届いたライン素材からリアンプをすることが多いです。元のアンプ素材がある場合は自分が必要と思う帯域を付加する方法で(位相は十分注意しながら)追加していきます。
まずはリアンプボックスが必要です。(インピーダンスを合わせる機械)
リアンプの王様
Little Labs / pcp instrument distro 3.1
リアンプボックスとダイレクトボックスの機能付き
3つの回線で3台のアンプを同時に鳴らすことも可能
リアンプボックスの中で最高品質
音質
操作スピード
マニアック度
クール
有名なリアンプボックスよりも僕はこのリアンプボックスをお勧めします。音質最高で多機能です。出来ないことを探す方が難しいです。3台同時にアンプを鳴らしたまま、ミックスするなんてことも出来ます。
ダイレクトボックス機能は少しレベルが大きめなので、PRSなどの出力の大きい楽器を使用している方は少し注意が必要です。(間にアッテネーターが必要になります。)
次はアンプです。
アンプ前にエフェクトの付いていないアプシュミレーター専用機
Positive Grid / BIAS MINI GUITAR
世界中のミュージシャンが作ったプリセットをダウンロード可能
真空管交換など細部まで改造が可能
ベースアンプも対応
音質
操作スピード
マニアック度
クール
現在発売されているデジタルアンプの中では、一番音が好みでした。レコーディングで1台しかアンプを持っていけないとなったら僕は迷わずこのアンプを選びます。最近は小さなブースで録音することも多く、歪み用のアンプ1台とそれ以外をBIAS MINI GUITARでやりきるという事が多くなってます。
このアンプにアナログのキャビネットシュミレーターを繋げるとさらにパワーアップします。
クリーントーンはアンプに勝てるかもしれない
PALMER / PDI-03
2つのアウト(キャビネット、歪み成分)で素早い音質調整が可能
キャビネットのタイプと大きさを変更可能
アナログ回路でレイテンシー削減
音質
操作スピード
マニアック度
クール
ライブなどでキャビを鳴らさず、この機材から直接PAに繋いでいる人もいます。クリーンサウンドは特に人気です。デジタルのキャビネットシュミレーターも発売されていますが、レイテンシーがあるので、僕はお勧めしておりません。音を変化させるのはデジタルアンプの方で良いと考えます。
そして、一番重要なパーツがこちらです。
アンプが唸る感じを付加する
APHEX / EXCITER
低音と高音の倍音を調整
デジタルアンプの惜しい感じを軽減
アンプのデプス、プレゼンスのような音を付加できて質感、帯域を可変式
音質
操作スピード
マニアック度
クール
現在発売されているアンプシュミレーターやキャビネットシュミレーターにずっと思っていることがありました。
実際のアンプでは無いのですが、便利ではある。でも本物と何かが違うと思う部分を別のパーツで補えないか。
僕はAPHEX EXCITERを追加してデジタルアンプの未来をさらに広げることが出来たと思います。
ほんの少しだけ重低音や高音の倍音を調整することで実際のアンプでなっているような仕上がりにすることができました。
もっとハイクラスな機材でも試してみたいと思い、物色中です。
これらの機材を利用してアンプやキャビネットの質感を追加していくと立体的なサウンドを作っていくことができると思います。
歪みと言うパーツはいまだにデジタルでは表現できない部分が多いと考えていますが、このようなアナログの機器との融合でまだまだ検証の余地はあると思います。
1つの機材だけでは、企業の値段設定とコストの問題で納得できる製品はなかなか難しいと思いますが、利便性とのバランスの面で僕は納得するリアンプボックスを作れたと思っています。
また空間を広げるという意味では、実音から、アンビエントマイク素材を作り、素材と反対のPANに配置するなども左右のバランスをとる意味では有効です。(LRで別の音色のギターなどが入る場合に有効)
シンセ
最近届くシンセの多くがゆらぎの少ないものが多いような気がしています。
DAWは同じ答えを精密に出し続ける機械なので当然なのですが、そこが問題と思っています。
そこでここでもリアンプを導入しています。
空間系のエフェクターはもちろんのこと、いちどアナログシンセ等を経由して取り込み直すなどもやっていたりします。
トラックメイカーとしての仕事であれば、アナログシンセを使用して音色を作り直したりします。
アナログシンセの楽しみを感じられる
Arturia / MINIBRUTE
電源を入れて30分待つ玄人の喜び(音が安定するまで時間がかかります。)
USB、MIDI、CV対応で、外部音源をオシレーターに混ぜる事が可能
数々のビンテージシンセを蘇らせてきたArturiaのモノフォニックハードシンセ
音質
操作スピード
マニアック度
DAWとの連携
外部入力音をオシレーターに混ぜる事が可能なので、元のシンセの音色とMIDIデータと合わせて少しだけ音の加工をしたり出来ます。アナログ領域で音色を変化させるが僕のやり方の基本になっています。
また上記のリアンプボックスを持っていると安価なコンパクトエフェクターをミックスでも取り入れることができるので、フルデジタルのミックスとは違ったゆらぎをパーツに付加することが可能になります。
特にディストーションとディレイは、何故か僕はプラグインがあまり好きになれません。
逆に細かな設定をDAWとシンクさせたいので、フィルター関係はプラグインを良く使用します。
一番好きなのは、このステップフィルターです。(Cubaseの純正プラグインです。)
ただ並べられただけのループ素材を意味のあるトラックに変化させる
Cubase / StepFilter
カットオフとレゾナンスの自由度が高く、視覚的にもすぐわかる
DAWとシンクしているのでタイミングはばっちり
Cubaseの純正プラグイン
音質
操作スピード
マニアック度
痒いところに手が届く
DAWにはループ素材が多く含まれていますが、ノリがオリジナルの楽曲にあっている可能性はかなり低いです。
パーカッションを実際に演奏してダビングした物ではないので仕方ないのですが、音楽では大変重要です。
各トラックのグルーヴチェックで解説したような修正を加えても、相性が悪い状態のままの場合
ステップフィルターを使用して、ループ素材の加工をし、時間の変化をつけることが出来ます。
歌ってみた、逆転のMix法(歌い手さん用)のディレイのパートで解説したようにループに対してアクセントを与えていく。実音にも時間の変化を追加することが可能です。
基本となっているリズム楽器にループ素材を寄せていく、Arturia / MINIBRUTEでも同じような事は可能ですがフィルターで加工していくのも面白いです。
いつか、これと同じ仕組みをモジュラーシンセで作りたいという野望が膨らむばかりです。
プラグインのフィルターではこのようなものを使用しています。
シンセフィルターの王様
Arturia / 3Filters
3つのシンセフィルターの王様のセット
DAWと完全同期が好きな人はアナログフィルターよりもお勧め
音質の良さと現代の需要を融合
音質
操作スピード
マニアック度
痒いところに手が届く
フィルターといえばMOOGかと思いますので、言葉はいらないかもしれません。
実機で手に入れようと思うと、車が買える金額になってしまうので是非プラグインをお勧めします。
コーラスとは少し違ったニュアンスでLRに広げたい
コーラスとは少し違った広げ方を出すには、使い易いプラグインだと思います。
少し過激な音色だなと思ったら、原音とのミックスバランスを変更してみましょう。
なかなか良い出汁効果をもっています。
WAVESはDAWと共に進化していくメーカーだと思っています。
少しフィルターとはジャンルが違いますが
色々設定を考えるのは好きじゃない
WAVES / OneKnob Series
迷いことが出来ない1つのつまみ
用途に合わせた8個のプラグイン
シンプルイズベスト
音質
操作スピード
マニアック度
痒いところに手が届く
つまみを回せば、すぐに判断が可能なワンノブシリーズです。
パッドとOneKnob Wetterの相性は抜群です。
ボーカル
歌ってみた、逆転のMix法(歌い手さん用)の中で解説した、ボーカルの立体感を作り方。
スピーカーのツイーターはボーカルの物の中で解説したようにツイーターをボーカル用に開けておけば、そこまで悩む事はないかと思っています。
ディレイで、スピード感を出すなどを試した後はディレイにリバーブをつけてみたり、ディレイの前にローファイをつけてみるなど試す方法は様々あります。
基本の正面にボーカルが立っている姿をまず完成させてから色々試していきましょう。
迷ったらミュートしてみる。必要かどうかがすぐわかります。
響きをつけたら、不要な場所はオートメーションでミュート
響きの要素をつけたら、必要のない部分はミュートしていくようにしましょう。
響き実音をより前に出す為の出汁要素です。
聴こえてしまって違和感がある部分は遠慮なくオートメーションでミュートしていきます。
まとめ
UAD Ocean Way Studios以外にもIR系の響きのプラグインも色々発売されています。
レコーディングスタジオが何故たくさん存在していて、それぞれ独自の響きがあった。
歴史を考えていくと現在でもデジタル機器やプラグインでも試していく価値は十分にあると思います。
真空管やヘッドアンプでも音の立ち上がり部分の調整など奥の深いジャンルだと思いますが、どんどん試していくと自分のミックスの概念が育っていくと思います。
そうゆう意味ではMix用とRec用オーディオインターフェイスを分けて考えるで紹介したUniversal Audioのオーディオインターフェースはアナログ機器の導入前に大変勉強になる機材だと思います。
今回は時間軸の変化を味方につけるについて解説しました。
次回は歌詞の聞き取り易さを確認(スピーカー、大中小それぞれ確認する)について解説したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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