2026年4月8日、音楽配信サービスのTuneCoreが、RoyFiとの提携によるTuneCore Direct Advanceを発表しました。
TuneCoreはアーティストが自分でSpotifyやApple Musicなどの主要ストリーミングサービスに楽曲を配信できるプラットフォームです。レーベルに所属しなくても配信できる手段として、インディーズのアーティストを中心に広く使われています。
TuneCore Direct Advanceは、そのTuneCoreを通じて得られる将来のロイヤリティをもとに、先に資金を受け取れる仕組みです。TuneCoreはこれを、長期拘束や権利の譲渡を伴う従来型の前金とは違う選択肢として打ち出しています。
2026年9月1日時点で、この仕組みはグローバル版TuneCoreからRoyFi経由で実際に申請できる状態です。一方、TuneCore Japanではサービス開始の告知を確認できず、日本向けアカウントから利用できるかは公表されていません。

ロイヤリティの前払いって、要するに借金ということですか?

少し違います。信用調査もクレジットスコアも関係なくて、審査されるのは「これまでいくら稼いだか」と「これからいくら稼ぎそうか」です。
返済もロイヤリティから自動で引かれるので、毎月の請求書が届くわけでもありません。
TuneCore Japanから使えるのか
先に、日本で読んでいる方にとっていちばん気になるところから書きます。
結論から言うと、確認できていません。
公式発表では対象を「qualifying artists around the world」としており、米国在住者限定とは書かれていません。日本在住だから対象外、という話ではないようです。
ただ、注意が必要なのはここからです。日本で多くの方が使っているTuneCore Japanは、Wano GroupがTuneCore, Inc.(米国)との合弁で運営している別のサービスです。料金体系も独自に組まれています。
そしてTuneCore Japan側のニュース、サイト、ヘルプセンターを見た範囲では、Direct AdvanceやRoyFiに関する案内は見つかりませんでした。
つまり「日本在住者は使えない」でもなく、「TuneCore Japanのアカウントから申し込める」でもありません。どちらも確認できていない、というのが正確なところです。
TuneCore Japanを使っている方は、この記事の内容がそのまま自分に当てはまるとは考えず、個別に問い合わせて確認するのが確実だと思います。

これは「新人向けの夢の制度」ではない
まず押さえておきたいのは、これが誰でも使える万能な資金調達ではないということです。
対象はあくまで、ストリーミング実績のあるアーティスト。審査は信用情報ではなく、売上の履歴と将来予測をベースに行われます。
申請時には、TuneCoreの収益明細をRoyFiへ提出する必要があります。公式の案内には「過去2年分」と「過去2〜3年分」の両方の記載があるため、実際に求められる期間は申請時に確認したほうがいいと思います。
もうひとつ、グローバル版の料金ページでは、Direct AdvanceがProfessionalプランの欄に掲載されています。ただし別の説明では「収益に基づく対象アーティスト」とされているため、Professionalプランへの加入が必須なのかは断定できません。利用中のプランと申請画面を、あわせて確認したほうが安全です。
つまりこれは、ゼロから何かを賭けるための仕組みではなく、すでに生まれている収益を前倒しで使う仕組みと考えるのが正確だと思います。
新人アーティストが夢を叶えるための制度というより、すでに数字を持っているアーティストのための資金化ツール、という整理が分かりやすいかもしれません。
移籍組を意識した設計になっている
この仕組みが特に意識しているのは、「すでに他の配信サービスで実績を上げているアーティスト」だと思います。
TuneCore公式も、他所で収益を上げているアーティストがカタログを移して申請する場合、より大きな前払いや有利な条件の対象になり得ることを案内しています。
これはつまり、「これから売れるかどうか分からない方に資金を配る」という話ではなく、すでに回っている収益を持つ方を取りにいくサービスという側面が強いということです。
配信インフラを変えることで資金調達の条件が変わる可能性があるという点は、インディーズで活動している方にとって知っておく価値がある情報だと思います。
旧Lyric Financial版からRoyFi版へ
実は、TuneCore Direct Advanceという名前のサービスは今回が初めてではありません。
以前はLyric Financialとの提携で提供されていました。ただし公式ヘルプによると、Lyric Financial経由の新規受付は2024年10月に終了しています。現在の新規申請はRoyFi経由です。
旧Lyric Financial版では「12か月継続して収益があり、合計870ドル以上」という具体的な基準が案内されていました。ただしこれは旧制度の条件であり、現在のRoyFi版に同じ基準が適用されるとは確認できません。
名前は同じでも、中身は世代交代しています。古い記事や情報を読むときは、どちらの話なのか注意が必要です。

この経緯を知っておくと、突然始まった新しい制度ではなく、TuneCoreが数年かけて続けてきた取り組みの現行版だということが分かると思います。
仕組みとしては明快
サービスの構造自体はシンプルです。
アーティストは権利を手放さず、前払いを受け、返済は将来のロイヤリティから自動で行われます。

公開されている条件を整理すると、こうなります。
- 費用は一回限りの定額手数料(flat fee)。金利ではない
- 返済はロイヤリティの一定割合から自動。月々の請求も支払期日もペナルティもない
- 早期返済ができる
- 完済すると、以後のロイヤリティはアーティストに戻る
- 最低契約期間はない
- カタログの一部だけを返済対象にすることもできる
- 信用調査は行われず、クレジットスコアは審査に関係しない
申請は、TuneCore公式ページに設置されたRoyFiの申請画面から行います。TuneCoreと同じメールアドレスでRoyFiアカウントを作成する形です。
大きな前払いを取るか、返済の対象を絞るか。ここを自分で選べるのは、実務的に大きいと思います。
一方で、前払金額の最低額・最高額や手数料率は一般公開されていません。実際の条件は申請時に個別提示されると考えたほうがよさそうです。
レーベルから前金をもらうと、その分の収益をレーベルに返し続ける契約になることが多いですが、この仕組みではあくまで自分のロイヤリティから返済が完結します。権利移転が伴わないという点は、インディーズのアーティストにとって分かりやすい利点だと思います。
注意しておきたい点
ただし、「アーティストに優しい金融」とだけ受け取るのは少し雑かもしれません。
公式のFAQには、前払い期間中はRoyFiにTuneCoreアカウントのコントロールが付与されるため、リリースを取り下げられないと記載されています。
権利は残ります。でも、運用上の裁量には制限がかかります。
これはRoyFiがアーティスト活動全般を管理するという意味ではなく、返済の原資になる収益とリリースを確保するための、TuneCoreアカウント上の制限だと理解するのが正確です。
それでも、たとえば「この曲は取り下げたい」と思ったときに自分の判断だけで動けない期間ができるというのは、事前に知っておくべきことだと思います。
これをレーベル契約より透明だと見ることもできますし、逆に「配信インフラ側が金融まで握り始めた」と見ることもできます。どちらの見方が正しいかより、自分の活動スタイルに合うかどうかで判断するのが大事だと思います。

自分が使えるかどうかは、どこで分かりますか?

まず、自分が使っているのがグローバル版のTuneCoreなのか、TuneCore Japanなのかを確認するところからです。
あと料金プランにも条件がある可能性があるので、申請画面まで進んでみるのが早いと思います。
Mix師の目線から見ると
個人的に興味深いと感じるのは、この動きが音楽制作の現場にも少しずつ影響してくる可能性があるということです。
「作品を作る前のお金」と「作品が生んだ後のお金」が、これまでより明確に分かれてきたと感じます。
新人育成や先行投資は、まだレーベルや事務所の役割が大きい。でも、すでに数字を持っているアーティストは、レーベルに深く入らなくても、配信収益そのものを元に次の制作資金を作れるようになってきています。
これが広がっていくと、「契約を取る」ことよりも「収益を作る」こと自体がアーティストの交渉力になっていく時代が来るかもしれません。
Mix師の仕事としても、自分でリリースして自分で数字を持つアーティストが増えていけば、制作への関わり方も少しずつ変わっていくのかなと思っています。
まとめ
TuneCore Direct Advanceについて解説しました。
- 対象は実績のあるアーティスト(新人向けではない)
- 移籍組には有利な条件の可能性がある
- 権利は保持したまま、将来のロイヤリティから返済される
- 前払い期間中はリリースの取り下げができないという制限がある
- 旧Lyric Financial版は2024年10月に新規受付を終了、現在はRoyFi経由
- 2026年9月1日時点で、グローバル版からは申請できる状態
- TuneCore Japanのアカウントから使えるかは確認できていない
新しい夢の制度ではなく、実績あるアーティストのための資金化の手段として理解しておくのが正確だと思います。

インディーズの世界でも、配信・権利・金融が一体化していく流れが始まってきている。そのことをこのサービスは示していると感じています。
この仕組みが自分に合うかどうかは、今の活動の規模と今後の方向性によって変わってきます。実際に検討される場合は、公式の情報もあわせて確認してみてください。
参考リンク:TuneCore サポート「Recent Updates to TuneCore Direct Advance」(Lyric Financial 経由の新規受付終了について)

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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